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不動産投資の「節税」は年収いくらから効く?
600万・1,000万・1,500万で試算したら全員0円だった

最終更新:2026-07-20

「年収が高い方ほど税金を取られています。不動産で節税しましょう」—— 年収が上がってくると、この電話がかかってくるようになります。 言っていること自体は嘘ではありません。不動産所得が赤字なら給与所得と損益通算でき、税率が高い人ほど戻る金額は大きくなる。理屈は合っています。

問題はその金額です。同じ物件を年収600万円・1,000万円・1,500万円の3パターンで最後まで計算すると、 戻ってくる税金はどの年収でも0円になりました。 以下、前提をすべて開示したうえで計算します。数字を入れ替えればご自身のケースでも検算できます。

試算の前提条件(物件)

物件価格2,800万円(新築ワンルーム)
内訳建物 1,700万円 / 土地 1,100万円
借入2,800万円(フルローン)・35年・年1.9%
月返済額約91,300円(元利均等)
家賃月95,000円(満室想定・下落なし)
管理費・修繕積立金月12,000円
賃貸管理料月5,000円(家賃の約5%)
固定資産税・都市計画税年70,000円
減価償却建物1,700万円を47年・定額法 → 年約36.2万円

① 毎月いくら出ていくのか(年収に関係なく同じ)

家賃95,000円から管理費等12,000円と賃貸管理料5,000円を引くと、手取りは78,000円。 ここから返済91,300円を払うので、毎月13,300円・年間159,600円が持ち出しになります。 これは年収がいくらであっても変わりません。しかも満室・家賃下落なし・修繕ゼロという、実際にはあり得ない好条件での数字です。

年間キャッシュフロー

(95,000 − 12,000 − 5,000 − 91,300)× 12 = ▲159,600円

② 帳簿上の赤字はいくらか(これも年収に関係ない)

不動産所得は「家賃収入 − 必要経費」で計算します。経費には減価償却費と借入利息が含まれるため、帳簿上は赤字になりやすい構造です。

家賃収入:1,140,000円

必要経費:

  • ・減価償却費 362,000円
  • ・借入利息(初年度概算) 526,000円
  • ・管理費・修繕積立金・賃貸管理料 204,000円
  • ・固定資産税・都市計画税 70,000円

不動産所得 = 1,140,000 − 1,162,000 = ▲22,000円

③ 年収別に、いくら戻るのか

ここで初めて年収が効いてきます。赤字22,000円に、その人の限界税率(所得税+住民税10%)を掛けた金額が戻ります。 年収が高いほど税率が高いので、確かに戻る金額は増えます。増えますが——

年収課税所得(概算)限界税率戻る税金
600万円約300万円20%4,400円
1,000万円約650万円30%6,600円
1,500万円約1,130万円43%9,460円

最も税率の高い年収1,500万円の人でも、戻ってくるのは年9,460円です。 年間15.96万円を持ち出して、戻りは1万円未満。年収600万円の人にいたっては4,400円。 この時点で、すでに「節税」と呼べる規模ではありません。 ——そして実際には、この金額すら戻りません。

④ 営業資料に書かれない3つの前提

土地の借入利息は、損益通算から除かれる

これが最大の落とし穴です。不動産所得の損失のうち土地等を取得するために要した負債の利子に対応する部分は、給与所得と損益通算できません(租税特別措置法41条の4)。 この物件は2,800万円のうち土地が1,100万円=39%なので、利息526,000円のうち約207,000円が土地分です。 赤字22,000円は土地分利息207,000円の範囲に丸ごと収まるため、損益通算できる赤字は0円。年収がいくらであっても、0円に税率を掛ければ0円です。

年収営業資料的な還付実際の還付年間の手残り
600万円4,400円0円▲159,600円
1,000万円6,600円0円▲159,600円
1,500万円9,460円0円▲159,600円

※ 赤字が土地分利息(207,000円)を超えれば、超えた部分は損益通算できます。 ただし「赤字が大きい」とは、それだけ現金が出ていっているということです。節税額を増やしたければ、より多く損をする必要があります。

大きく戻るのは初年度だけ

営業担当者が見せる還付額は、初年度の数字であることがほとんどです。 初年度は登記費用・ローン事務手数料・不動産取得税といった一度きりの費用が経費に乗るため、赤字が大きく膨らみます。 2年目以降はそれらが消え、さらに返済が進むほど利息(経費)も減っていくので、赤字幅は毎年縮んでいきます。 「初年度の還付額 × 35年」という説明を受けたら、それは成立しません。

減価償却は「消える税金」ではなく「後払い」

減価償却費を経費にすると、その分だけ建物の帳簿価額(取得費)が減ります。 取得費が減った状態で売却すれば、譲渡所得はその分だけ大きくなり、売却時に課税されます。 節税ではなく課税の繰り延べです。 さらに所有5年以内の売却は短期譲渡所得となり、税率は約39.63%(所得税・住民税・復興特別所得税の合計)と高くなります。

結論:「年収が高いほど節税になる」は、この物件では成立しない

年収600万円でも1,500万円でも、年間15.96万円の持ち出しに対して還付は0円でした。 税率が2倍以上違っても結果が同じなのは、そもそも損益通算できる赤字が残らないからです。 「高年収の方ほど有利です」という説明は、この構造を伏せたまま税率だけを見せています。

誤解のないように書いておくと、不動産投資そのものを否定しているのではありません。 否定しているのは「節税になるから買う」という購入動機です。 家賃収入が返済と経費を上回って手元に現金が残るなら、それは節税とは無関係に投資として成立します。 判断すべきなのは還付額ではなく、毎月の手残りと、空室・家賃下落・修繕が起きたときに耐えられるかどうかです。

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この記事の位置づけ
本記事は特定の物件・商品の購入や売却を勧誘するものではありません。 税額は概算であり、実際の税負担は他の所得・控除・家族構成・物件の個別事情によって変わります。 具体的な税務判断は、必ず税理士にご相談ください。

計算の前提
物件の数値は上記「試算の前提条件」に基づく概算です。借入利息は初年度の概算値、 減価償却は建物全体を47年・定額法で計算しています(実際は建物と設備を分けて償却するため金額は変動します)。 年収別の課税所得は、給与所得控除・社会保険料(概算)・基礎控除48万円を差し引いた単身者相当の目安で、 扶養控除や生命保険料控除等は考慮していません。限界税率は所得税率に住民税10%を加えた数値です。 いずれも満室・家賃下落なし・修繕費ゼロという買い手に最も有利な条件で計算しており、現実の収支はこれより悪くなります。

出典
損益通算の制限は租税特別措置法41条の4、所得税の税率区分および譲渡所得の税率区分は国税庁タックスアンサー No.2260・No.1440・No.3208に基づいています。制度は改正される可能性があるため、最新の情報は国税庁の公表資料をご確認ください。

筆者について・利益相反の開示
筆者は一棟アパートと戸建を保有する現役の不動産投資家で、区分マンションは過去に保有し売却済みです。 太陽光・区分・一棟と、失敗を含めて自分の資金で経験した範囲について書いています。 また筆者は本サイト(不動産管理ツール AssetOS)の運営者であり、本記事から自社サービスへ誘導しています。 記事の内容は特定の販売会社・仲介会社との提携によるものではありません。